交流タイム

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異分野の情報や意見を大事にしたい

本間

布穀会の本間蕉月といいます。この展覧会にはご自身でも何かつくっている制作者が見にいらっしゃいますよね。布穀会は黒白の表現が多いとはいえ、いろんな傾向の作品がありますから、例えば木版画、抽象画、彫刻とかそういう異分野で制作なさっている方からの情報や意見なども貴重なものだと思うんです。布穀会の作品が参考になると言われることも多いんですよ。一度お呼びすれば割合毎回来ていただけるので、その辺、考えてみてはいかがでしょうか。

 

田宮

東洋書芸院と一煌会の石川天瓦さんは、もともと油絵をやっていた。しかし、抽象表現主義全盛の時代なんで書家がどんなことを考えているか知りたいなと思って、たまたま小川瓦木先生のところに行く。いろいろ見ている内に「あっ、こっちの方がいいや」と彼は書家になっちゃった。制作者でも鑑賞のつもりで行ったのが、そういう風に変わることがあるわけです。

 

椎木

田宮先生に非常に答えにくいかも知れんと思うんですけど、明治13年に岡倉天心と小山正太郎が「書は芸術か」論争をやりまして、あの時は結局答えが出ずのままできて、私なりに考えますと日本の美術館の学芸員で書を芸術だと思っている人は皆無に近いです。自分の解釈でいえば、1950~1965ぐらいまでは限りなく書が芸術に近かった時代のような気がするんですけれども……。

 

田宮

例えば東京国立近代美術館と京都国立近代美術館を例にしてみると、今泉篤男さんとか河北倫明さんのような人がいた時代は、書は収集されているんですよ。というのは彼らは書をやっているし、よく書のこと分かっている。しかし、今の学芸員は書は全く分かっていない、残念ながらね。それは学芸員の養成制度に問題がある――学芸員になるために勉強するところに書はないので身につくはずがない。世界的に見たら誠に恥ずかしいことなんですけれど、これが現実なんです。日本の近代化の歪みなんですね。それから、さっきの岡倉天心と小山正太郎の論争は完膚なきまでに岡倉天心が勝って「書は美術なり」ということになっています。ただ社会がそれを受け入れなかったというだけの話。あの論争自体は天心の完璧な勝ちなんです。それを近代化、西欧化した社会の人たちが受け入れなかったということなんです。

 

椎木

書の方のジャンルの反省として、やはり名実ともに負けないものをつくっていくことが大切ですね。今の日展にしても、書として数は多いですけれど、どっちかといえば中途半端な扱いをされていますよね。

 

田宮

僕は今、東京芸術大学に書道学科つくんなきゃいけないと叫んでいます。日本の近代化の過程において、余りにも欧米に眼を向け過ぎてきたために生じた社会構造の歪みが、書だけではないんですが、あらゆるところに生じているわけね。これを何とか変えていかないと世界で尊敬される国家にはならない。

 

 

芸大に書道学科をつくり学芸員を養成したい

椎木

制作者の立場からすれば、勉強してない学芸員でもギャフンといわせる作品をつくっていかなければならない。

 

田宮

ところでなぜ、私が芸大にこだわっているかというと、東京国立近代美術館に学芸員を送り込みたいわけね。そこに学芸員が送り込まれると右へ倣えで、だんだん全国の美術館へ入っていくんですよ。そのためには、東大か京大の美学や芸大に書道学科をつくって書道美学を専攻した人が必要なわけ。

 

徳田

作家がやる前に、やることがありますね。

 

田宮

だからね、書が芸術として価値があるかという理論的な追求も非常に大切だけど、豊道春海先生が「書は美術ではない」ということに対して「日本美術展覧会に入れば美術になるんだ」という単純明快な考え方を示したのも社会的認知を得る方法だったんですよ。これも大事なんだよね。だから、東京芸術大学に書道学科をつくるでしょ、そうすると、絵画を専攻する人も教養課程でみんな書をやるようになる。今、画家で毛筆でデッサンする人はいませんよ。日本画家だってクロッキーかなんかですよね。だから日本の絵が駄目になっていく。戦後、抽象表現主義の時代に日本の画は世界的なレベルにあったわけです。あの人たちは皆かつて書道やっていた。前衛画家の白髪一雄だって何だってストロークが出てくるわけね。今の人はそういう素養がないから。今、韓国ですよ、世界的に活躍しているのは。日本は完全に没落しちゃったね。だから社会的仕組みから、まず始める必要がある。芸大に書道学科ができると、教育の問題にもいい波及効果が出てくる。東京国立近代美術館で『上田桑鳩展』とか『手島右卿展』とかが開催されるようになれば、書は芸術なんだということが社会的風潮となり、だんだん人々の間にそれが常識として位置づいていくんですよ。だから理屈でやる部分ともっと単純に考えてやる部分と両方ないと駄目。

 

秋山

日本の近代化の歪みを我々で是正しなくちゃいけないということになりましたね(笑い)。

 

田宮

それが布穀会の仕事ですよ(笑い)。

 

鈴木

何か尽きない感じですけど、大分、時間も回りました。今回来てくださった方たちが、さらに来年また5人とか10人連れて来ていただくことを期待したいと思います。皆さん、本日は本当に長い間どうもありがとうございました。